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2024年3月29日(金曜日)開幕!! 銚子電気鉄道22000形シニアモーターカー

  2024/3/29
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銚子電気鉄道(以下、銚子電鉄)の新戦力、元南海電気鉄道(以下、南海)2200系ズームカーの22000形シニアモーターカーが2024年3月29日(金曜日)に開幕を迎えた。当面は“「朝専用」という名の限定運行”ながら、銚子電鉄は「フラッグシップ」と位置づけており、新時代の到来を告げた。導入の経緯などについて、現在も税理士を兼務、2023年9月まで運転士の業務もこなしていた“三刀流”の竹本勝紀社長にお伺いした。

銚子電鉄が南海2200系の購入を決めたワケ

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南海2200系(提供:南海電気鉄道)。
銚子電鉄(路線名は銚子電気鉄道線)は銚子―外川間6.4キロの路線で、日本の普通鉄道(路面電車、ケーブルカー、モノレールなどを除く)では、6番目に短い鉄道である。加えて最高速度は路面電車と同じ40km/hで、普通鉄道では、もっとも遅い。その分、車窓から流れる太平洋やキャベツ畑などを存分に満喫できる。

次なる車両を導入する際、車両メーカーに新製車両を発注する余裕もなく、別の鉄道事業者から役目を終える中古車両を購入するしか選択肢がない。加えて、ほとんどの駅のホーム有効長は18メートル車2両分なので、1両最大18メートル車の導入が理想である。さらに架線電圧も今では珍しい直流600ボルト。現状では1500ボルトに昇圧するのが難しいようである。

中古車両の導入についてハードルが高い中、南海2200系を導入する大きなきっかけとなったのは、京王重機整備から話があったこと。銚子電鉄は数年前から全般検査、重要部検査を依頼しており、2023年7月9日(日曜日)に連携協定を締結した。

南海2200系は1969年に高野線(こうやせん)用の22000系として登場し、ズームカーの愛称で親しまれた。ズームカーというのは、平坦線では高速度、急勾配と急曲線が多い山岳線では低速度で牽引力を出す車両で、自由に速度を駆使することができる。言葉の由来は航空用語の「ズーム」で、急角度上昇を表す。

1994年、高野線用の2200系に改造。当初は橋本―極楽橋間の各駅停車として運行していたが、1997年に支線区への転用改造を受けた(現在は1編成がジョイフルトレイン『天空』に改造され、高野線に復帰)。このほか、支線区用の2230系、貴志川線用の2270系(現在は貴志川線を引き継いだ和歌山電鐵に移籍)に改造され、新たなスタートを切った。

この車両最大のメリットは4つある。

1つ目は走行機器類が直流1500ボルトと600ボルトの両方に対応できること。1969年の登場時、南海全線の架線電圧は直流600ボルトだったが、1973年10月7日(日曜日)に高野線、10月10日(水曜日・体育の日)に南海本線と支線区が1500ボルトに昇圧した。なお、貴志川線のみ600ボルトを継続していたが、2006年4月1日(土曜日)に和歌山電鐵が引き継いでから6年後の2012年2月1日(水曜日)、1500ボルトに昇圧した。

2つ目は山岳線対応車にするため、1両17メートルという、普通鉄道では比較的小型の車両である(参考までに東京メトロ銀座線の車両は1両16メートル、丸ノ内線の車両は1両18メートル)。

3つ目は関西の私鉄では珍しい狭軌(1067ミリ)であること。それ以外の標準軌(1435ミリ)などは台車の取り換えが必要になる。

4つ目は1969年の登場時から1編成につき2両のままなので、改造や輸送のコストが抑えられることだ。

竹本社長は2023年6月、南海に申し入れたところ、8月に快諾を得た。

京王重機整備で転用改造

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22000形シニアモーターカーの車内。
南海2200系2両は廃車後、海上経由で京王重機整備に運ばれ、降圧化改造して直流600ボルトに専念。また、旧2202を電装解除し、2Mから1M1T(Mは電動車、Tは付随車、数字は両数)になった。ちなみに1号車はクハ22007、2号車はデハ22008である。

車内は運賃箱、運賃表、整理券発行機を設置。ワンマン運転は南海時代から実施されているが、上記の設置は貴志川線用の2270系のみなのが意外である。ほかは南海時代のままである。

車椅子スペースは2200系改造時に設置。ただ、銚子電鉄の多くの駅は電車とホームの段差が高いので、乗降に時間を要しやすい。今後はホームのかさ上げのほか、近畿車輛が実用化を進めている車載式スロープ装置「スマートランプ」の導入など、“より利用しやすい環境”の整備が求められる。

カラーリングは南海22000系登場時のオリエンタルグリーンをベースに、エメラルドグリーンの帯を巻いたものに戻した。銚子電鉄の鉄道部長は「銚電オリエンタルグリーン」「銚電エメラルドグリーン」と称しており、竹本社長は「キャベツ畑によく合う色」と自負する。

車型(「車系」ともいう)も「系」と「形」が異なるとはいえ、登場時の「22000」に戻し、車体側面の車両番号のフォントも忠実に再現した。方向幕も南海時代では運行実績や上記カラーリング車両の運用実績がない特急〈サザン〉(なんば―和歌山市・和歌山港間運転)も入っており、“遊び心”がある。

移籍後の車両愛称「シニアモーターカー」について竹本社長にきくと、以前から時々言っていたという。銚子電鉄では2023年に開業100周年記念として、最高速度40km/hの“鈍足”を逆手に取った「自転車より遅い 歩くより速いシニアモーターカー」(税込1800円)というマフラータオルを販売した。イラストは2000形大正ロマン電車と3000形澪つくし号という大ベテラン車両なので、どの車両も「シニアモーターカー」に当てはまる。

竹本社長は「シニアモーターカー」を商標登録しようとしたが、「リニアモーターカーがあるから、登録すると誤認される」ことを理由に申請を受け付けてもらえなかったという。

気になる冷房の能力

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3000形澪つくし号は2号車にロマンスシートを設置。
気になるのは暑い時期に欠かせない冷房だ。『鉄道ピクトリアル』2011年10月臨時増刊号(電気車研究会刊)の2000形紹介ページで、銚子電鉄総務部の方が下記を記述したので、引用させていただく。

「当社の変電設備が600V(ボルト)であるため,フルノッチを同時に入れると変電設備に負担がかかるという弱点がある.この電圧の都合でクーラーが付いているものの使えないのである.夏は送風のみで室内は暑く,今までの状況と変わらない.」

竹本社長に確認したところ、3000形澪つくし号は冷房を入れっぱなしで運転をしても、20パーミルの勾配にさしかかっただけでSIV(Static Inverter:静止形インバータという低圧電源装置)が悲鳴をあげるという。室内灯が消灯し、冷房も切れるそうだ。乗務員は乗客に「大変失礼しました」「御了承ください」と謝りの放送を入れ、理解をお願いしている。また、竹本社長が運転士として下り列車に乗務した際は、登り坂になると冷房を笠上黒生(かさかみくろはえ)変電所付近まで一時停止したという。

一方、2000形、22000形シニアモーターカーについては終日冷房を入れっぱなしにしても問題ないという。

もうひとつ気になる稼働年数

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22000形シニアモーターカーは、1969年製という御年55歳の大ベテランなので、どのくらい稼働するのだろうか。

竹本社長は「30年もたせたい」と構想を述べた。現在、電車のVVVFインバータ制御は25年程度での更新を目安にしているのに対し、抵抗制御はその倍以上はもつ。関西の大手私鉄は現在も抵抗制御の車両(南海7100系、阪急電鉄3300系など)が制御装置の更新をせず第一線で活躍する。路面電車も最高速度40km/hが幸いしたのか、大ベテランの車両が多く、長持ちするようだ。

現役続行の2000形第2編成も1962年製、3000形澪つくし号も1963年製で還暦に達した。したがって、南海では大ベテランだった車両も、ここでは“「若手」という名の新参者”なのだ。

デビューが“控えめ”な理由

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22000形シニアモーターカーの運転台。
2010年代後半あたりから、ウケねらいや自虐的なネタ、映画制作などを大々的に展開するエンターテインメント鉄道として全国的な知名度が高い銚子電鉄。22000形についても竹本社長は「シニアモーターカー」と称し、新戦力を大いにアピールした。しかし、冒頭で述べたとおり、当面は“朝専用列車”という控えめなスタートとなり、通勤・通学といった地元民のために従事する。

竹本社長によると、22000形シニアモーターカーが2024年2月に搬入された際、一部の人々が民家や畑の敷地内に入って撮影し、警察が出動する騒ぎになったという。デビューを大々的にすると、二の舞が起こることを懸念した模様である。

8年ぶりの新戦力に竹本社長がこう意気込む。

「高野山の天高く、まさに“天空”に向かっていった車両だと思うので、当社も業績が天空に昇るような、右肩上がりになればいいなという思いを込めて、運行したいと。そんな感じですね」

南海22000系時代は過酷な山岳線に挑み、2200系改造後は和歌山港線にも運用され、紀伊水道付近を走行していた。銚子電鉄22000形も太平洋付近を走行するので、海に縁がある車両、海沿いが似合う車両のようだ。末永い活躍を期待したい。

将来は元の4編成体制に戻すことを目指す

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左は2000形、右は22000形シニアモーターカー。
現在、銚子電鉄の営業車は22000形シニアモーターカー1編成、2000形1編成、3000形澪つくし号1編成の計3編成を有している。このほか、単行車の1000形デハ1002(丸ノ内線分岐線カラーの車両)は事業用車、電気機関車のデキ3形は動態保存車である。

竹本社長によると、2024年度には、もう1編成の導入を予定しているという(注:詳細はまだ決まっていない)。2024年3月15日(金曜日)に退役した2000形第1編成の晩年は「大正ロマン電車」と銘打つジョイフルトレインということもあり、その系譜を継ぐ車両にしたいというのが理想である。そして、2016年以来となる営業車4編成体制の復活を目指す。

実は竹本社長には苦い経験がある。

十数年前、デハ1001を置き換えるため、ある車両の譲渡計画が進んでいた。某鉄道事業者の架線電圧が直流1500ボルトなので、600ボルトに降圧化改造しなければならない。

その課題に直面したことを受け、某鉄道事業者はあるメーカーに問い合わせたところ、「降圧化改造ができる技術者がいない」「今までやったことがほとんどない」という理由で断られ、譲渡そのものが白紙となってしまう。

これが大きく影響した。

2016年、補助金を受けて伊予鉄道700系(新製時は京王帝都電鉄5100系)をやっとの思いで購入。3000形澪つくし号として、1000形を置き換えた。営業車はすべて2両車に統一され、輸送力が増強したかに思えたが、銚子電鉄の経営がいっそう厳しい状況に陥ってしまう。このため、保有車両も4編成から3編成(2000形2編成、3000形1編成)に見直さざるを得ない状況となり、減便を余儀なくされた。利便性の低下により、乗客数も減った。

3編成に減ったことで、1編成が検査のため離脱すると、予備車が1編成減ってしまう。以前、1編成が検査中に別の1編成が故障してしまい、予備車がなくなってしまう事態に見舞われた。もう1編成を入れることで、日中は約30分間隔のダイヤに戻せるほか、検査時以外の予備車を2編成確保できる。

取材した日は地元の方より観光客やレールファンが多く、始発の銚子では弧廻手形(1日乗車券。大人700円、小児350円)が飛ぶように売れた。日中は車掌が乗務しており、買いやすい環境を整えている。また、ワンマン運転ながら、始発駅以外はすべての乗降用ドアを開閉しており、円滑な乗降を図っていた。

これからもネタを披露しつつ、沿線や沿線外からも愛される鉄道として、“チューモーク!”を集め続けそうだ。

【取材協力:銚子電気鉄道】
岸田法眼の鉄道チャンネル
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『Yahoo! セカンドライフ』(ヤフー刊)の選抜サポーターに抜擢され、2007年にライターデビュー。以降はフリーのレイルウェイ・ライターとして鉄...
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